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大阪地方裁判所 昭和33年(ヨ)878号 判決 1958年7月17日

申請人 吉田進 外二七名

被申請人 布施交通株式会社

主文

被申請会社は、昭和三三年一月一日以降毎月二〇日限り、

申請人吉田に対し 金二九、五一三円

同  斎藤に対し 金二七、八六四円

同  中路に対し 金二八、七二九円

同   森に対し 金三〇、二八二円

同  黒田に対し 金三六、〇二五円

同  十川に対し 金一八、一〇三円

同  向井に対し 金三五、六一二円

同  田中に対し 金三二、二三〇円

同   蔡に対し 金三八、〇六三円

同  浅田に対し 金三五、六二五円

同  三島に対し 金三六、八三七円

同  小竹に対し 金二九、二二五円

同  金沢に対し 金二五、一七一円

同  和田に対し 金三四、八二四円

同  山崎に対し 金三四、四一四円

同  肥塚に対し 金三二、二九一円

申請人藤井に対し 金三〇、四九三円

同  虎田に対し 金三二、〇三九円

同  新田に対し 金二三、五三七円

同  長尾に対し 金二九、九四五円

同  青田に対し 金二四、一五二円

同  御前に対し 金二九、三八三円

同  口野に対し 金二七、二六三円

同  田上に対し 金三〇、九〇九円

同  伊藤に対し 金二九、八一九円

同  大石に対し 金三七、一六一円

同  米崎に対し 金一八、九九六円

同  太田に対し 金二八、八七二円

の各割合による金員を支払わなければならない。

申請人等のその余の申請を却下する。

訴訟費用は被申請会社の負担とする。

(注、無保証)

事実

第一、申請人等の主張

申請人等訴訟代理人は「(1)被申請会社は、申請人等が被申請会社構内に立入り、平常の労務に従事することその他従業員として有する一切の権利を行使することを妨げてはならない。(2)被申請会社は、昭和三三年一月一日以降毎月二〇日限り、申請人吉田、同斎藤、同中路、同黒田、同向井、同田中、同蔡、同浅田、同三島、同小竹、同金沢、同和田、同山崎、同肥塚、同虎田、同長尾、同口野、同田上、同伊藤、同大石、同太田に対しそれぞれ一か月主文記載のとおりの、同森に対し一か月金三〇、五九六円、同十川に対し一か月金二四、九六二円、同藤井に対し一か月金三〇、五八四円、同新田に対し一か月金二四、四二三円、同青田に対し一か月金二五、五六四円、同御前に対し一か月金三〇、六一〇円、同米崎に対し一か月金二三、七一八円、の各割合による金員を支払わなければならない。」との判決を求め、その理由として、次のとおり述べた。

一、被申請会社(以下単に会社ともいう)は、肩書地に本店を置き、従業員約一〇〇名とタクシー約四〇台を以て、一般乗用旅客自動運送業を営む資本金一〇、〇〇〇、〇〇〇円の株式会社、申請人等は、いずれも被申請会社の従業員であるとともに、布施交通労働組合(以下単に組合ともいう)の組合員である。

二、申請人等は、以下述べるような経過のもとに、会社が申請人等の就労を拒否しているため、昭和三二年一二月二九日以降労務の履行が不能の状態にある。

1  申請人等による組合の結成

被申請会社では、従来申請人等従業員の固定給が一日一〇〇円という同種事業中最低の水準に抑えられていたほか、時間外、深夜労働を強要されながらそれに対して正当な割増賃金が支払われず、しかも賃金からは使途不明の五〇〇円を控除され、更に事故を起した場合には会社が一方的に査定した不当な事故弁償金を徴収される等、労働基準法で保障されている最低の水準をすら下まわる低い労働条件のもとで就労させられていた。その上従業員が右のような状態について、その改善を要求すると、解雇すると脅されたり、日常職場で罵倒される等、人格無視の扱いを受ける状態であつた。そこで、労働者としての地位の向上と労働条件の改善をはかるため、労働組合結成の必要に迫られていたが、これまで、従業員による組合結成の試みは、会社側の妨害によつて、その実を結ぶに至らなかつた。しかし、申請人吉田を中心とする数名の従業員が会社側に察知されぬよう組合結成の準備を進めた末、遂に昭和三二年一二月二四日布施交通労働組合の結成にこぎつけ、執行委員長に申請人吉田、副委員長に古館秀雄、書記長に大塚三郎を選出するとともに、上部団体たる総評全国旅客自動車労働組合大阪地方連合会(以下単に全旅大阪地連という)に加盟し、会社に対する当面の要求事項を決定した。その後たちまち、組合は多数従業員の加入を得て、組合員総数約六五名をかぞえるまでに成長を遂げるに至つた。

2  組合の団交申入と会社の態度

組合は、右決定にもとずき、同月二八日午前九時頃吉田執行委員長と大塚書記長が、文書を以て、会社に対し、組合の成結を通告するとともに「(1)基本的人権を認めよ(専務の横暴)。(2)越年資金一人一律五、〇〇〇円を追加せよ。(3)未収金の歩合を認めよ。(4)使途不明の五〇〇円を明示すよ。(5)不当な事故弁償金を撤廃せよ。(6)その他割増賃金に関する件。」の六項目を交渉事項として団体交渉を申入れた。しかるに、会社の権田専務は、右両名に対し組合を否認する趣旨の暴言を吐いてこれを会社構内に引きずり出した上、他の組合員に向つても退去を要求し組合員全員を構内から追出し、団体交渉の申入を故なく拒絶した。そこで組合員はストライキを以てこれに抗議することに決し、その旨吉田執行委員長から権田専務に口頭で通告した後、ストライキにはいつた。その後折衝の末会社は団体交渉に応ずることを承諾したので、組合は同日午後二時三〇分ストライキを解除して組合員全員平常どおりの労務に復した。しかし、同日午後六時からの団体交渉において、会社側は権田社長の不在を口実に誠意を以て協議に応じなかつたばかりか、権田専務が再び組合を否認する意味の暴言を吐くような状態であつたため、何ら協議がととのわないままもの別れに終つた。

3  会社の就労拒否

更に、会社が一方で組合の切崩しを策し、翌二九日未明仮眠のため帰社した組合員に対して組合から脱退することを強要し、これに応じない場合は就労を拒否する旨をほのめかした。その結果一〇数名の組合員がやむなく脱退届に署名している。しかも会社は、同日朝起床ベルを鳴らさず、エンジンキイと車体検査証を取りあげたまま車輛に配付しない等の手段によつて、組合員の早朝の出庫を不可能ならしめた。そして、勤務交替時間たる午前一〇時の始業点呼に当り、会社の山本総務部長は従業員に対して「会社は組合を認めない。今後組合を白紙にかえし、班長の指示で働く者だけ残れ。他の者には用がないから出て行け。」等と発言し、組合の解散を迫り、且つ組合員の就労を拒否する旨を通告するに至つた。これに対し一部組合員が抗議したところ、権田会長は「組合員を七〇〇、〇〇〇円もする車に乗せられないから早く出て行け」等と怒鳴り立てて、組合員を構外に追出した上表門を閉鎖して組合員の就労を暴力的に拒否したものである。

4  申請人等の就労要求と会社の態度

かように、就労拒否という予期せざる事態に直面した組合員は、あくまで正常な労務に従事する意思を以て、翌三〇日以降連日にわたり毎朝勤務交替時間である午前一〇時頃会社に赴き、就労要求をくりかえしたが、会社側は組合員の構内入場を許さず「組合を白紙にもどして出直してこない限り、お前等に用はない。」等の暴言を以て答えるのみであつたばかりか、勤務交替時間を変更したり組合員の乗車すべき車輛をどこかに隠す等の姑息な手段に訴えて組合員の就労を拒否する態度を頑強に堅持し、非組合員及び臨時雇を使用して営業を継続した。その間、組合三役のみは入場を許され、会社幹部との間で、即時組合員全員を就労させることを要求して数次にわたる交渉を重ねたが、会社側は、組合を解散しない以上就労を拒否するとの一線を墨守して譲らなかつた。かように、会社の態度が理不尽を極め、且つ会社の従業員がその構内に立入ることは当然の権利でもあるから、組合員は、就労要求貫徹のためやむを得ざる手段として、昭和三三年一月四日から同月九日までの間従業員仮眠所等で泊りこみにはいつた。その間、組合員は終始口頭で就労の申入を反覆するとともに、会社側の協力あり次第いつでも就労し得る態勢をとつたが、会社側は言を左右にしてこれに応じようとせず、遂には暴力を行使して組合員の就労を阻止した。そこで、組合員は同月九日泊りこみを中止し、その後は従前どおり毎朝出社して就労要求を継続したが、会社側の態度にはいささかの変化も見られなかつた。このような経過のうちに、同月一二日布施市セッツルメントにおいて団体交渉が行われたが、会社側は依然として「組合を白紙にかえせ。」との主張を固執するばかりで、事態の収拾についていささかの誠意も示さなかつた。

5  就労要求のためのその後の組合活動

そこで、組合員は、これまでの話合いによる事態収拾のためのあらゆる努力が無に帰したので、同月一三日午前四時頃会社に赴き、会社幹部に対し即時就労方を強く訴えたが、これを頑強に拒否されたため、万やむを得ない手段として会社所有の自動車二〇台に分乗して大阪陸運事務所並びに大阪地方労働委員会に至り、就労要求実現のため適切な措置をとられたき旨を陳情した上、夕刻右自動車を会社に返還した。更に、一四日以降数日にわたり、「就労させよ」「団交せよ」等の正当な要求を記載したビラを作成し、大阪市内ターミナルで、営業中の会社自動車にこれを貼布する等の方法で会社の反省を促した。ところで、これらの所為は、会社所有の物件を毀棄する等の意図でなされたものでないことはもとより、従来の会社の無暴な態度に対する抗議手段であつて、正当な組合活動の範囲に属するものである。

6  協定の成立とロックアウト

前記のような経過のうちに、同年一月二二日布施市セッツルメントで開かれた団体交渉において、当初の組合の要求事項の一部について協定が成立するに至り、労使双方は早急に正常な状態に復した上右協定を誠意を以て履行するとのとり決めが行われ、その旨の協定書が作成された。しかして組合としては、就労問題が、当面の最も重要な要求事項となつていたものであるから、会社に対して今後一切の争議行為を行わないことを明言した上、就労問題の早期解決を要求したが、会社は不当にも組合三役が引責退陣しない限りこれに応じ得ないとの態度に出た。そこで、組合側はあらためて会社に対し早急に就労問題についての回答を行うよう要求したところ、会社は同月二五日までに回答を与える旨を約したので、これに多大の期待を寄せていたにもかかわらず、会社は右回答日たる同月二五日に至つて組合員に対しロックアウトを通告して作業所を閉鎖し、組合員の就労を全面的に拒否して事態を一層紛糾させるに及び、その後引続きロックアウトを継続しているものである。

三、職場放棄であるという会社の主張について

会社は、前記一二月二九日以降ロックアウトに至る間の不就労状態を以て、申請人等による職場放棄或いは闘争宣言なき事実上のストライキであると主張するが、申請人等を就労不能に陥れた一切の責任が会社側にあり、申請人等は終始一貫就労の意思を以てその申入を続けてきたことは右述の通りであつて、会社の主義は著しく事実を歪曲するものである。組合としては、前記一二月二八日の団体交渉で、組合の掲げた六項目の要求事項につき殆ど何の成果をも得なかつたので、引き続き右要求貫徹のため闘争を継続する意思を放棄したわけではないが、会社側の露骨な組合嫌悪に根ざす就労拒否に直面した結果、就労問題こそがその後の唯一最大の要求事項となつたものであり、また、時あたかも年末年始の、従業員にすれば最も水揚げの多い稼ぎ時であり賃金請求権の喪失を賭してまで職場放棄に訴えるには努めて慎重を期すべき時期に当つていたのであるから、僅か五、〇〇〇円の越年資金の追加払を獲得するために一日一、〇〇〇円余にものぼる賃金をその代償に供するなどおよそ非常識な話である。しこうして、会社がかくも頑迷に組合員の就労を拒みとおしたことの背後には、単なる就労拒否の域をこえて、これによつて組合の壊滅をはかるという不当労働行為意思が潜在していたものである。すなわち会社は従来から組合の結成を恐れ、種々工作をめぐらせてその動きを弾圧してきたが、前記のように組合の結成されたことが通告されるや組合役員のほか一般組合員をも構外に閉め出し、組合を解散しない限り就労させない旨の暴言をくりかえし、また一部組合員に組合脱退を強要し、その結果組合を脱退した従業員には就労を認めているのであつて、これらの諸点よりすれば、本件就労拒否は申請人等が組合を結成してこれに加入し正当な組合活動をしたことの故を以てなされた不利益取扱であるとともに、組合運営に対する不当な支配介入でもあることは疑をいれない。

四、ロックアウトの違法性

会社が一月二五日に断行したロックアウトは次の理由によつて違法である。

1  先ず、ロックアウトは、労働者の争議行為に対する対抗手段として使用者に許されている争議行為であるから、いかなる意味でも先制的ロックアウトをなすことは許容できないというべきである。ところで、会社は、組合の行つた前記会社所有自動車を使用しての陳情デモ並びにビラ貼り等の行為を目して違法な争議行為であると断定し、その継続の危険性があつたから、本件ロックアウトを断行したと主張するが、右各所為が正当な組合活動の範囲を越えるものでないこと前記の通りであるし、その後組合が同種行為を反覆乃至継続しようとしたことは全くなく、却つて、本件ロックアウトに先立つこと三日前の一月二二日には、前記協定が成立し、会社としてロックアウトに出る何等の必要性も存しなかつたのである。なお、右一月二二日の団体交渉に際して、組合側が同月二五日までに就労問題についての回答を求め、回答のない場合には組合として独自の行動に出ることもあり得る旨を述べたが、本件労使間の紛争の焦点が就労問題にあることからして、右協定書にいわゆる早急に正常な状態に復する云々とは、申請人等を就労させることにほかならず、従つて就労問題の回答を求め、且つ申請人等の就労要求がいかに切実な真意に出るものであるかを認識させるため独自の行動云々の語を用いたまでであつて、新たなる争議行為の通告というにはおよそ縁遠いものといわねばならない。なお、仮に組合が就労要求貫徹のために組合活動として行つた前記の各所為が正当な組合活動の範囲を逸脱していたとしても、その行為者について、労働協約或いは就業規則等に基く個人的な責任追求の手段に出るのはともかく、一月二五日頃には会社がロックアウトを以て対抗防禦すべき何等の組合の行為もなかつたのであるから、単に過去の行為に対する反省を求めることのみを目的として本件ロックアウトがなされたものとすれば、それは、正当な必要性をこえたところのロックアウト権の濫用というのほかない。

2  更に、本件ロックアウトは、組合員である故を以て不利益に取扱い、組合の団結力を弱めその自壊作用を誘発するという違法な目的のもとに断行されたものでもある。本件ロックアウトは、前記一二月二九日以降の就労拒否の延長として、組合の根強い就労要求の前に、これ以上、頬かむりを続け得なくなつたあげく、いわばこれを形式的に合法化するためロックアウトの名を冠したものと見るべき性質のものであるが、右就労拒否が組合員に対する不利益取扱、組合運営への支配介入を目的とする不当労働行為の性格をもつこと先に述べたとおりであり、その延長たる本件ロックアウトも、非組合員のみを就労させて、組合員を継続的に職場から閉め出すことにより、会社は何等営業上の損失を蒙らないのに、一方的に申請人等組合員を生活の危機に陥れ、その結果、組合の動揺崩壊を招来すること乃至は中心的な組合活動家の排除を意図してなされたものであることは明白である。

右いずれの理由からしても、本件ロックアウトは、違法であつて使用者に認められた争議権行使の正当な範囲を逸脱するものといわざるを得ない。

五、1 就労等妨害排除仮処分の申請

会社は、昭和三三年一月二五日以降現在まで引続きロックアウトを継続して、申請人等の会社構内への立入並びにその就労を拒否しているが、右ロックアウトが不当労働行為として違法なものであることは既に述べたとおりである。その結果申請人等が労働組合員として有する団結権が不当に侵害されているわけであるが、およそ団結権なるものはその内容として、これに対する違法な侵害を排除する具体的な請求権を包摂すると解すべきであるから、申請人等は、就労の機会と組合活動の場を確保するため会社構内に立入ること並びに労務に従事する等会社従業員としての権利を行使することにつき、被申請会社の違法な妨害を排除することを求め得るものであるところ、被申請会社が本件ロックアウトを適法であると主張している結果、本案判決によつて救済されるまで、申請人等の団結権が重大な脅威にさらされることになるので、仮に右妨害の排除を請求し得る地位にあることを定める旨の仮処分を求める。

2 賃金支払の仮処分の申請

前記のとおり、申請人等は、昭和三二年一二月二九日以降被申請会社の違法な就労拒否とロックアウトの結果、労務の履行が不能の状態にあるが、右履行不能が民法第五三六条第二項にいわゆる債権者の責に帰すべき事由による場合に該当することはいうまでもなく、従つて申請人等は右一二月二九日以降の賃金請求権を失わないものである。しこうして、申請人等の一か月の平均賃金は、それぞれ申請の趣旨記載のとおりであつて、賃金支払日は毎月二〇日である。なお、このうち申請人斎藤、森、十川、金沢、藤井、新田、青田、御前、米崎の九名については、労働基準法第一二条において平均賃金算定の基礎とされている三か月間の中に、それぞれ特別の事由によつて特に受領した賃金の少額である月が含まれているので、かかる場合には過去六か月間に支払われた賃金の平均額を求めるのが相当であるから、該方法によつて算定したものである。ところで、申請人等はいずれも賃金を唯一の収入源とする賃金労働者であり、その支払を得られない結果重大な生活の脅威におびやかされているので、本案判決によつて救済を得るまでの間、右被保全債権のうち昭和三三年一月一日以降の分について仮の満足を求めるため本件仮処分申請に及んだ次第である。

第二、被申請会社の主張

被申請会社訴訟代理人は「申請人等の申請を却下する。」との判決を求め次のとおり主張した。

一、申請人等の主張、一、記載の事実はすべてこれを認める。

二、1 申請人等の主張二、の1の記載の事実のうち、申請人等が組合を結成し役員を選出した事実及び総評全旅大阪地連に加盟した事実はこれる認めるが、組合員数は不知、その余の主張事実はこれを争う。

2 申請人等の主張二、の2記載の事実のうち、申請人等主張の日時に組合が文書を以て組合の結成を通告するとともにその主張のような六項目の要求を掲げて団体交渉を申入れた事実、組合はその直後ストライキに突入したが午前二時三〇分頃ストライキを解除して組合員全員平常どおりの労務に復した事実、同日午後六時頃から団体交渉が行われた事実はいずれもこれを認めるが、その余の主張事実はすべてこれを争う。なお右ストライキは、闘争宣言もなく抜き打ちに無通告でなされたものであつて、これは、現在のわが国における労働慣行に反するといわねばならない。

3 申請人等の主張二、の3記載の事実は全部これを争う。一二月二九日は、午前七時頃会社において組合員非組合員の区別なく、各担当車輛にエンジンキイと車体検査証を配付し仕事に出るよう要請したのであるが、申請人等組合員は何故か乗車しようとせず、一方的に事実上のストライキ又は職場放棄に出たもので、会社が申請人等の就労を拒否した事実は全くない。また同日午前一〇時には平常どおりの始業点呼を行い、山本総務部長から、大阪陸運事務所長よりの通達事項を口頭で伝達しただけであつて、組合員の就労を拒否するような発言は一切なされてはいない。しかも会社は、同日勤務の従業員に対して、もれなくエンジンキイと車体検査証を備えつけた車輛を配車し、仕事に出るよう懇請したにもかかわらず、申請人等はだれ一人として会社の業務命令に従つて車に乗ろうとせず、一方的に職場を放棄して会社門前の赤旗のもとに集合し、その結果、当日は操業不能のやむなきに至つたものである。

4 申請人等の主張二、の4記載の事実のうち、会社が非組合員及び臨時雇を使用して営業を継続している事実、昭和三三年一月一二日布施市セッツルメントにおいて団体交渉が行われた実事のみを認め、その余の主張事実はすべてこれを争う。一二月三〇日以降においても、会社は、申請人等が会社構内に入場すること、タイムレコーダーを打つこと、自動車を運転してタクシー営業に出ること等を、何ら拒否していないのに、申請人等は全然定刻に会社に出勤せず、一人としてタイムレコーダーを押したり作業衣に着替える等就労の準備をした者はなかつた。本来就労せんとする者は、午前一〇時までに出社して、タイムレコーダーに押印し、作業衣に着替えた上、午前一〇時の始業点呼を受けることになつている。しかるに申請人等は、毎日点呼時を経過した正午頃或いは夕刻になつて、会社門前に現われ「働かせ」と連呼してはさつと引揚げるという状態で、単なるいやがらせをくりかえしていたに過ぎず、真実就労の意思があつたものとは到底考えられない。その後申請人等は一月三日以来、従業員仮眠所、食堂及び脱衣室を不法に占拠して「闘争本部」なる看板を揚げ、同月一二日夕刻まで占拠を続けたほか、その間殆ど連日にわたり、会社構内、社長宅、営業中の会社自動車の車体等にビラを貼りつけたり、墨を塗る等の行為に出たのであるが、これ等の行為は、組合が本格的なストライキ態勢にはいつていたことを雄弁に物語るものである。

5 申請人等の主張二、の5記載のいわゆる「就労要求のための組合活動」なるものの真相は、次のとおりである。すなわち、

(一) 一月一日午後、大阪市内上本町六丁目及び鶴橋附近で営業中の会社所属の自動車が停車している機をとらえて、その車体にビラを貼布したり、窓硝子に墨を塗りつける等の行為をはたらいた。

(二) 同月三日以降一二日に至る間になされた会社建物の不法占拠並びにビラ貼り等の行為については、先に述べたとおりである。

(三) 同月一三日午前四時三〇分頃、申請人等は、支援団体の組合員とともに、大挙して会社構内に侵入し、会社幹部や宿直員を一室に軟禁した上一切の電話連絡を禁じ、非組合員たる従業員を仮眠所に監禁した後、実力を行使して、会社所有の自動車二〇台を構外に持出し、大阪陸運事務所への陳情デモに用いた。しかも残る二〇台については、タイヤの空気を抜いてしまい、遂にその日一日、会社の操業を完全に不可能にしてしまうという、威力業務妨害乃至暴力行為等取締法違反に該当する違法な争議行為を敢行した。

(四) 同月一八日、申請人等は、非組合員によつて大阪市内を運転営業中の会社所属の自動車に、乗客を装うて乗車し、市内北区中津所在済生会病院及び大阪駅附近で停車させた上、待機中の組合員がその車体に墨を塗つたり会社を誹謗する内容のビラを一面に貼りつけたほか、乗車料金を請求した運転手を袋叩きにして傷害を与え、且つ料金を踏みたおす等、威力業務妨害乃至準強盗に該当する行為に出て、合計一五台の自動車を、当日営業不能ならしめるに至つた。

右のような争議行為は、その目的の当否を問うまでもなく、既にその手段乃至態様の点において、争議権行使の正当な範囲を遙かに逸脱したものであることは極めて明白である。

6 申請人等の主張二、の6記載の事実のうち、一月二二日布施市セッツルメントで開かれた団体交渉において協定書が作成された事実、会社が同月二五日申請人等組合員に対しロックアウトを通告して作業所を閉鎖し、その後引続きロックアウトを継続している事実のみを認め、その余の主張事実はこれを争う。

三、前記一二月二九日以降ロックアウトに至る間の申請人等の不就労状態は、会社の就労拒否に基くものでなく、申請人等の一方的な職場放棄又は闘争宣言なき事実上のストライキと見るべきものであることはすでに述べたとおりである。元来、年末年始は、タクシー業界にとつて、一年中で最も繁忙を極めた。いわば書き入れ時であつて、会社としては、一人でも多くの従業員に就労して貰いたい時期であるのに、就労を拒否する等という非常識な行為に訴える筈がない、それなればこそ、会社の田中経理部長は、右一二月二九日組合三役に対し何はともあれ年末年始のことであるから、一応組合員を就労させて貰いたい旨強く要望したのである。ところが、同人等は、六項目の要求事項に関する即時回答を求めるのみで、頑としてこれを聴き容れなかつたものであつて、このことから見ても、申請人等は、一二月二八日の団体交渉の結果を不満として、右六項目の要求貫徹のため一方的に職場放棄の手段に訴えたものであることは頗る明白である。また、申請人等は、会社が不当労働行為の意思を以て、組合員の就労を拒否したと主張するけれども、会社としては、誰が組合員で、誰が非組合員であるかさえ、全く知らなかつたのであるから、そもそも組合員のみを差別して取扱うよすがもなかつたわけで、右主張は、申請人等の被害妄想というの他ない。

四、会社が一月二五日に断行したロックアウトは、いかなる意味においても、使用者に認められている争議権行使の正当な範囲を逸脱するものではない。

1  一月二二日の団体交渉において、作成された協定書の内容は、その末尾の文言に照して明かなとおり、最終的な解決を意味するものではなく、将来、労使双方において、正常な状態に復した上で履行すべき性質のものであつた。

ところが右団体交渉に際し、申請人等組合側は、威嚇的態度を以て、会社に対し、二四日夕刻迄に未解決の問題についての回答をなすべく、万一回答のないときは、組合として独自の行動に出る旨を言明、新たな争議行為にはいる場合のあることを通告した。そこで、会社は、同日夕刻迄熟慮の末前記のような過去における組合の相次ぐ違法な争議行為と右威嚇的通告とをにらみ合せると、組合の闘争態度について反省を促すためには、組合の争議行為に対する受身の対抗手段として、ロックアウトを断行する他ないとの結論に達し、翌二五日のロックアウト宣言となつたものである。従つて、本件ロックアウトは、いささかも先制的ロックアウトとして非難されるいわれがなく、組合が再び前記のような違法な争議行為に訴える危険性が頗る明白であつたので、これに対する自衛手段として、会社の企業防衛上やむを得ない緊急の必要性にもとずき、なされたものである。

2  申請人等は、本件ロックアウトは、不当労働行為の意図を以てなされたものであると主張するけれども、会社としては、組合が従来悪質な違法争議を反覆累行した事実から判断して、会社の企業所有権と営業上の信用に対し更に新たな侵害の加えられる危険性を認めたので、純粋に、かかる危険性を排除する目的から、本件ロックアウトを断行したものであり、申請人等主張のような不正な意図の介在し得る余地は皆無であつた。

3 果して、申請人等の所属する組合は、ロックアウト後も引続き、違法な争議行為を飽くことなく反覆している。即ち、四月一八日午後、吉田執行委員長他八名の申請人等が大阪駅北口駐車場で、折柄停車中の会社所有の自動車の車輪タイヤに釘を打ちこむ等のことがあつたほか、申請人等組合員は大阪地方労働委員会での審問及び同地方裁判所での本件審理に出頭した会社役員の帰途を襲い、数回に及び暴言を浴びせたり暴行を加える等の行為を続けている。そして、これ等行為については、常に執行委員長以下組合幹部がその主役をつとめ、或いは組合幹部の余りにも闘争的な指導方針がその誘因となつているものであるから、いずれも組合の争議行為としてなされたものと評価すべきことは疑う余地がない。そして、これ等行為が、一二月二八日以降の組合の争議行為と一連の関係に立つこともまた明かであつて、かかる違法な争議行為が反覆累行されている限り、会社は、引続き正当にロックアウトを継続し得る権利を有するものといわねばならない。

五、1 申請人等は団結権に基く妨害排除請求権を被保全権利として、就労等妨害排除の仮処分を求めているが、実体法上かかる被保全権利を認むべき余地がないから、主張自体理由がないものといわざるを得ず、且つ仮にかような被保全権利の主張が許されるとしても、本件ロックアウトが適法なものである以上、憲法が労働基本権として団結権を認めているからといつて、会社が申請人等の労務提供の受領を合法的に拒否し得ることは当然であるから、申請人等の右仮処分の申請は被保全請求権を欠くものといわねばならない。

2 昭和三二年一月二九日以降昭和三三年一月二四日までの期間申請人等が労務を履行していないのは、先に述べたとおり全く申請人等の一方的な職場放棄乃至事実上のストライキの結果であり、その責は債務者たる申請人等に帰せられるべきものである。更に同月二五日以降は、会社において正当なロックアウトの効果として賃金支払義務を免れるものであるから、結局申請人等には賃金請求権なく、保全の必要性に及ぶまでもなく、申請却下を免れない。なお、申請人等主張の賃金支払日は認めるが、平均賃金の額はこれを争う。

第三、疎明関係<省略>

理由

一、被申請会社が肩書地に本店を置き、従業員約一〇〇名とタクシー約四〇台を以て一般乗用旅客自動車運送業を営む資本金一〇、〇〇〇、〇〇〇円の株式会社であること、申請人等が被申請会社の従業員であるとともに布施交通労働組合の組合員であることは何れも当事者間に争がない。

二、弁論の全趣旨に徴して成立を認め得る甲第一〇号証に証人山口泰男、小西範忠の各証言、申請人吉田進本人尋問の結果を綜合すると、次の事実が認められる。すなわち被申請会社では、従来申請人等従業員の賃金手取額が他の同種会社に比較して低位にあること、会社発行のチケットによる場合を除いて未収金についての歩合が認められていないこと、労使間の協定がないのに毎月五〇〇円という使途不明の金額が賃金から控除されること、事故を起した場合計算根拠の不明確な事故弁償金を賃金から差引かれ且つその金額が自動車修理代の一般相場に比して相当に高額であること、割増賃金の算定に不合理な面のあること等、待遇問題に関して従業員の間に不満の声が高く、更に従業員がこれ等待遇問題の改善を要請すると配置転換を命ぜられたり解雇すると脅され、とくに権田専務が粗暴性格の傾向があつて従業員を殴打するようなことも必ずしも稀でなかつたところから、従業員内部に同専務の横暴を呪う声があがつていた。そこで一部従業員の間で、過去三回にわたり組合の結成が試みられたが、会社幹部の組合嫌悪の念が極めて強かつたため何れも会社側の買収・饗応戦術等を以てする懐柔工作に禍いされ、短日月のうちに失敗するに至つている。かくするうち昭和三二年一二月頃申請人吉田を中心とする従業員有志によつて組合結成の準備が進められ、遂に同月二四日申請人斎藤宅に吉田等従業員約七名が会合の上組合の結成に漕ぎつけ、組合三役として執行委員長に申請人吉田が、副委員長に古館秀雄、書記長に大塚三郎が各選出され、会社に対する当面の要求事項を決定するとともに、上部団体たる総評全旅大阪地連に加盟したものである(ただし、組合の結成、組合三役の選出、上部団体への加盟の三点は何れも当事者間に争いがない)。そして同月二八日現在の組合員数は約五〇名を算えるに及んでいる。

三、同月二八日午前九時頃吉田執行委員長と大塚書記長が、組合結成の通告並びに申請人等主張のような六項目を要求事項とする団体交渉の申入を内容とする権田社長宛の文書(甲第二号証、乙第一号証)を山本総務部長に手交したこと、その直後組合はストライキに突入したが、午前二時三〇分頃スト態勢を解いて就労したこと、同日午後六時頃から団体交渉が行われたことは何れも当事者間に争いがない。

そして弁論の全趣旨に徴して成立の認められる甲第七号証、乙第六号証(後記措信しない部分を除く)に、証人山口泰男、小西範忠、山本石蔵(後記措信しない部分を除く)、田中丙二(同)、河端重幸(同)の各証言に申請人吉田本人尋問の結果を綜合すると、次の事実が認められる。すなわち、右団体交渉申入書を受取つた山本総務部長は応答を留保して事務所にはいつたので、吉田執行委員長等は仮眠所に赴き同所で待機していた組合員に今後の注意等を述べていたところ、権田専務が血相を変えて現われ、吉田、大塚両名の胸ぐらを取つて会社表門附近まで引きずつて行き「この会社はおれの財産だ。お前等貧乏運転手は出て行け」等と叫んで右両名を構外に追い出し、更に構内で洗車作業中の従業員に向い「勝手なまねをする組合員には用がないから退職届を書いて出て行け」等と怒号したため、組合員等はあい前後して会社表門前に集合し、会社側の態度に抗議する措置を話合つた結果ストライキを以て会社の反省を求めることに意見がまとまり、その旨を吉田執行委員長から権田専務及び金光車輛課長に口頭で通告してストライキにはいつたが、その後総評大阪地方評議会常任幹事山本敬三等が組合三役とともに会社側と折衡の末、門前の状態を平常にもどすこと、組合員全員直に就労のため出庫することを条件として同日午後六時から団体交渉が行われることとなり、申請人等組合員はスト態勢を解いて勤務に服するに至つた。しかして同日午後六時頃から会社仮眠所の二階において、会社側は権田専務、権田常務、山本総務部長等が出席して組合三役との間に団体交渉が行われ、組合の掲げる六項目の要求事項中、専務横暴の問題について権田専務から今後の自重を約する旨の回答がなされたが、その他の要求事項については、たまたま権田社長が不在であつたので会社側から一応の回答が示されたのみで散会した。

なお、会社は組合が行つた右ストライキについて、無通告の抜き打ちストであるから労働慣行に反すると主張するが、口頭による通告のなされたことは右に認定したとおりであり、且つ、団体交渉の申入後短時間のうちに組合がストライキに突入したことは叙上のとおりであるけれども、それは、団体交渉の申入に対し実力を用いて組合役員を構外に追出し組合員の退去を求める言動に出た会社側の態度が、組合をしてかかる形態のストライキに追いこんだものと認めるのが相当であるから、これを不当視することはできない。乙第六号証、同第一三号証並びに証人山本石蔵、田中丙二、河端重幸の各証言のうち、右認定に反する部分は何れも信用することができず、他に右認定を動かすに足る疎明資料はない。

四、申請人等が昭和三二年一二月二九日以降昭和三三年一月二四日までの間、被申請会社における労務に従事していないことは当事者間に争いがないが、右不就労状態について、申請人等は会社が就労を拒否したため労務の履行が不能となつたものであると主張するのに対し、会社は、申請人等が事実上のストライキ又は職場放棄に出たものであると抗争するので、この点を検討してみるのに、成立に争いのない甲第一、第三号証、前示甲第七号証、申請人十川本人尋問の結果によつて成立の認められる甲第八号証、申請人太田本人尋問の結果によつて成立の認められる甲第九号証に証人山口泰男、小西範忠、金光庚(後記措信しない部分を除く)、田中丙二(同)、河端重幸(同)の各証言及び申請人吉田、虎田各本人尋問の結果を綜合すると、次のような事実を認めこるとができる。

1  右一二月二九日午前二時頃から、権田専務、山本総務部長、河端営業課長が、仮眠のため一旦入庫してきた申請人虎田他数名の組合員を事務所に呼び入れ「組合などにはいつていたら働けなくなるぞ。働かせて貰いたければ、組合脱退届に署名して印を押せ」等組合から脱退することを勧誘し、これに応じない場合は就労の機会を奪われることもあり得る旨を示唆し、その結果右勧誘に従つて脱退届に署名した者が出ている。

2  同日は、右仮眠のための入庫が何時になくおくれ、最終入庫者は午前五時近くに帰社するような状態であつたため、金光車輛課長が車輛保全の目的で入庫した車輛からエンジンキイを取りはずしてその保管に当り、その後早朝の出庫に備えて再びこれを各車輛に配付して出庫準備を整えたのであるが、これに先立ち数名の組合員が出庫のため担当車輛のもとに赴いたところ、平常と異りエンジンキイのはずされているのを見て、前日来の会社側の態度、とくに右1で述べた脱退勧誘工作等と思い合わせ、また当日はたまたま平常午前五時三〇分頃に鳴らされる慣例の起床べルが鳴らなかつたことも手伝い、会社が組合員の就労を拒否するに至つたものと判断し、仮眠所に引きかえして他の組合員に右状況を報告した。そこで組合員数名が配車場に赴き金光車輛課長に抗議したところ、同課長は会社が組合員の就労を拒否しているとの印象を強める発言をしたため、結局早朝の出庫はなされないままに終つた。

3  右のような経過のうちに、同日午前一〇時の勤務交替時間を迎え、当日勤務の従業員も出勤してきたが、山本総務部長は始業点呼のため集合した従業員に対して「会社は組合を認めることができない。今後組合を白紙にかえし、班長の指示で働く者だけ残つてくれ。他の者には用がない」旨の発言をなしたので、申請人十川等一部組合員が即時これに抗議したところ、同部長は同趣旨の言をくりかえすのみで、最後には権田専務が追立てるような手つきで「組合員は出て行つてくれ」とその退去を要求するに至つたため、組合員は就労を断念して、当日非番の組合員とともに会社門前の組合旗のもとに集合した。

4  その後同日午前一一時頃組合三役は仮眠所二階において田中経理部長と会見し、会社の反省を求め即時組合員を就労させるよう要請したところ、同部長は「組合運動などつまらないものはやめた方がよい。組合というのは刺激が強過ぎるから、課長、班長を含め全従業員の加入できる運営委員会といつたものにしたらどうか。そうすれば、私が顧問をつとめ、会社から組合員一人当り三、〇〇〇円の割合で合計三〇〇、〇〇〇円を基金として寄附するようとりはからつてあげよう」と提案し、組合三役がこれを拒否したためもの別れに終り、同日午後六時からの再会を約して会談を終えた。しかしその帰途組合三役と出会つた権田社長が「お前等は明日から来る必要はない。いくらでも新しい従業員を雇えるのだから、もう組合員には働いて貰う必要がなくなつた」と述べたため、組合三役も田中経理部長との再会に期待を託する余地がないものと判断し午後六時に予定されていた会見は行われないままに終つた。

5  そこで組合は翌三〇日、吉田執行委員長の名義で、就労拒否の取消を求める旨の権田社長宛の文書を内容証明郵便で発送した他、組合員は同日から昭和三三年一月二日までの間連日にわたり午前一〇時前後に会社近辺にある布施市永和駅で落合い、その足で会社に赴き口頭で就労要求を続けたが、会社は表門を閉ざし組合三役以外の者の入場を認めなかつた。そして、一二月三一日、一月一日、二日と引続き組合三役が会社幹部に対し即時組合員を就労させて貰いたい旨申入を行つたが、会社側の主張は、組合を白紙にもどすこと、組合三役が退陣することのくりかえしであり、これに応じない限り就労させるわけには行かないとの態度をあらためなかつた。他方会社は、一二月三一日頃から従業員の出勤時間を午前八時にくりあげ、また同月三〇日頃から権田専務、河端営業課長等が組合員の私宅を訪問し組合を脱退すれば就労させてやる旨を申出で、その結果数名の組合員が脱退して就労するに至つている。

乙第六号証、同第七号証の一、二、同第一二号証、同第一四、第一五号証、同第一七乃至第二三号証、同第三〇号証、同第三二乃至第三四号証、及び証人山本石蔵、田中丙二、河端重幸、金光庚の各証言のうち、右認定に反する部分は、何れもこれを信用することができず、他に右認定を左右するに足る疎明資料はない。

以上1乃至5記載の事実並びに先に認定したとおり従来会社が強く組合の結成されることを恐れ嫌つていたこと、更に前記一二月二八日組合の団体交渉申入に対し異常とさえいえるまでに挑戦的な反撥を示したこと等をあわせ考慮すると、会社は、申請人等が組合を結成し、団体交渉の申入乃至ストライキ等の組合活動を行つたことに対する対抗手段として、組合員を職場から排除することによりその勢力の拡大をくいとめるとともに、組合員に精神的・経済的な打撃を与えて、組合の団結力を弱める意図のもとに、一二月二九日の勤務交替時間たる午前一〇時を期し組合員の就労を拒否する措置に出で、その後組合が解散するか組合三役が退陣する等のことがない限り就労拒否の方針を改めない態度を引続き堅持するに至つたものと認めるのが相当である。

五、次に、前示甲第七号証、弁論の全趣旨に徴して成立の認められる乙第九号証の一、二(ただし、後記措信しない部分を除く)、同第一〇号証の一、被申請会社主張のとおりの状況の写真であることについて争いのない同第一〇号証の二乃至八、同第四〇号証の七乃至二五及び二七乃至二九に証人山口泰男、小西範忠、山本石蔵(ただし、後記措信しない部分を除く)、田中丙二(同)、河端重幸(同)、古館秀雄の各証言、申請人吉田本人尋問の結果を綜合すると、次の事実が認められる。

1  申請人等組合員は、上部団体の指示もあつて、昭和三三年一月三日以降就労要求の貫徹を期するため会社構内に籠城する方針をとり、会社表門を開放して構内に入場し、田中経理部長等に就労を要求したところ、同部長が「明日よい返事をするから」と退去方を要請したので、同日は一応引揚げたが、翌四日その回答を得るため会社に赴いたところ権田専務等が「昨日は昨日だ。帰らないか」と依然として就労拒否の言動を改めなかつたので、所定の方針にしたがつて構内に籠城することとし社内に入場し仮眠所並びに従業員食堂等に「闘争本部」なる貼り紙を掲げて坐りこみにはいつた。そして同月九日同所を引揚げるまでの間、組合三役は毎日のように会社幹部に就動問題について団体交渉を申入れるとともに、他の組合員等も各自口頭で就労を要求したのみならず、再三にわたりタイムレコーダーに押印したり空車に乗車しようと試みたが何れも会社役員等によつて阻止されている。

2  更に、同月一二日布施市セッツルメントで開かれた団体交渉の席上、組合側は強く就労を要求したが、会社側は組合の職場放棄を理由に責任をとれとの一線を固持して譲らず、交渉なかばで外部団体の組合員が会場におしかける等のことがあつてもの別れに終つた。

3  そこで、申請人等組合員は同月一三日午前四時頃支援団体の組合員の協力を得て、総勢約六〇名で会社に赴き、会社幹部に就労を申出たがこれを容れられず団体交渉の申入れについても社長の不在を理由に拒否されたので、会社幹部を事務所の一隅に閉じこめた上、会社所有の自動車約二〇台に分乗して大阪陸運事務所へいわゆる陳情デモを行い、同事務所に対して会社の就労拒否につき行政指導を与えるよう要請するとともに、大阪地方労働委員会に赴き不当労働行為救済命令の申立をなして午後四時頃帰社し、全車輛を会社に返還した。なお、申請人等が右自動車で会社を出発するに際しては、これを制止しようとする会社役員及び非組合員との間に多少の悶着を生じた。

4  申請人等は一二月末頃から会社構内、社長宅、会社所有の営業用自動車等に「団交せよ」「働かせよ」等と墨書したビラを貼布していたが、とくに一月一八日には、営業中の会社自動車に一般乗客を装うて乗車し、大阪市北区済生会病院前をはじめ、大阪駅等各ターミナルまで運転させ、待機中の組合員とあい呼応して、前同様の文言を記載してビラを車体に貼りつけた上、乗車料金の支払をなさずそのため非組合員たる運転手との間でつかみ合いの事態を生じた。

乙第九号証の一、二、証人山本石蔵、田中丙二、河端重幸の各証言のうち右認定と抵触する部分はこれを信用することができず、他に右認定を左右するに足る疎明資料はない。

ところで、右1、3及び4記載の申請人等の行動には会社の意思に反し実力を用いて会社の所有占有する建物を占拠したり、会社所有の自動車を無断運転使用する等正当な争議行為の範囲を逸脱していると目されるべきものが少くない。しかしながら、これら組合の争議行為は、叙上認定のとおり会社が一二月二九日以降一方的に組合員の就労を拒否し、その後の団体交渉等において組合側から再三にわたる執拗なまでの就労の申入があつたにもかかわらず、徒らに組合の解散、組合三役の退陣等組合の死命を制するような主張を固持して就労の申入を拒絶し、誠意を以て事態の収拾に努力する態度を見せなかつたばかりか、ひそかに組合員の私宅を訪問して組合からの脱退を勧誘しこれに応じた者には職場を解放する等の裏面工作をはかつたため、これに憤慨した組合員が、平和的な手段によつては、到底就労要求の貫徹を期し難いと判断した結果、やむなく採用するに至つた一連の強硬手段と見るべきものである。従つて会社自らがその責任においてかかる越軌行為を誘発したものといわざるを得ない以上、これを以て会社が申請人等組合員の就労を拒否する正当な理由となし得ないことはいうまでもない。

しかして、昭和三二年一二月二九日以降昭和三三年一月二四日までの間、会社が申請人等の就労を拒否したことについて他に正当な理由の存したことの主張も疎明もない本件にあつては、右期間の申請人等の不就労状態は、会社が正当な理由なくして申請人等の就労を拒否するという専ら会社の責に帰すべき事由によつて労務の履行が不能に帰した結果であるといわねばならないから、申請人等は民法第五三六条第二項に基き会社に対して反対給付としての賃金請求権を失わないものというべきである。

六、次に会社が昭和三三年一月二五日申請人等組合員に対しロックアウトを通告して作業所を閉鎖したことは当事者間に争いがない。

申請人等は、本件ロックアウトはいわゆる攻撃的ロックアウトとして違法であると主張するけれども、叙上認定のように組合が一月四日会社構内に闘争本部を設置し同所に籠城するに至つた頃以後においてはしばしば争議行為を行い、且つ同月一三日会社幹部を軟禁するほか、ほしいままに会社所有の自動車を持出して陳情デモを行い、同月一八日には乗客を装つて会社自動にビラを貼りこれを汚染する等適法な争議権行使の限界を超える行動が重なつたのであるから、本件ロックアウトは、右のごとき組合の争議行為に対抗し、企業施設の安全等を防衛するための自衛手段たる性格を有するものと解されるのであつて、申請人等主張のように先制的乃至は攻撃的ロックアウトであると断じ去ることはできない。

もつとも、一月二二日布施市セッツルメントで行われた団体交渉において、いわゆる協定書(乙第二号証)が作成されたことは当事者間に争いがない。しかしながら、成立に争いのない乙第二号証に証人山本石蔵、田中丙二、山口泰男(ただし、一部)、小西範忠(同)の各証言及び申請人吉田本人尋問の結果(同)を綜合すると、右協定書は就労問題をめぐる会社組合間の意見の調整をはかる前提として、まず当初の組合の六項目の要求事項のうち従来の団体交渉等において一応の了解点に達している部分について、いわばこれを確認し合うためのものとして書面に作成されたものであること、従つて六項目のうち最も重要な問題と考えられる越年資金追加の点は全く未解決のままに残されていること、不就労期間中の賃金の支払及び就労問題については何等の歩み寄りが見られず、会社側は前記一月一三日、一八日等の組合の争議行為に関連して組合三役が責任をとること、右争議行為に基く会社の損害を賠償することを主張したのに対し、組合側は即時無条件就労を要求して譲らない状態であつたこと、組合が就労問題についての回答を迫つたのに対し会社側はこれを一月二四日まで保留したところ、組合側として出席していた全旅大阪地連書記長小西範忠が会社に対し「一月二四日までに就労問題について誠意ある回答を与えない場合は組合として独自の行動に出る」旨を述べたことをそれぞれ認めることができる。これ等の事実をあわせ考えると、右協定書の作成はこれによつて労使間の争議状態を全面的に収束する意味を有していたものではなく、寧ろなお引続き争議状態が継続していたものと認めるのが相当であつて、右協定書の末尾に記載されている「本協定の趣旨に基き労使双方は早急に正常な状態に復した上誠意を以て履行する」旨の文言も、なお争議状態が尾を引いているものであるとの前提に立つて、早急に最終的解決に達するため労使双方が努力することを確約する趣旨のもとに附加されたものと解すべきである。証人山口泰男、小西範忠の各証言及び申請人吉田本人尋問の結果中右説示と牴触する見解は採用することができない。してみると、会社が右団体交渉の席上における小西発言や叙上のごとき本件争議の諸経過に徴し、就労問題についての会社の回答次第では、組合が再び同種の違法争議手段に訴え企業設備の安全を害される恐れありと判断して、本件ロックアウトを断行したことは、一応無理からぬところであつたというべきであり、申請人等主張のように組合の壊滅をはかることを決定的な動機としてなされたものとは認めがたい。

従つて、右ロックアウトは、組合の争議行為乃至その危険性に対抗するための防衛的手段として、組合に対し、会社事業場への立入禁止その他会社企業設備に対する妨害排除の効力を生ぜしめることは否定できない。

しかし、会社が右ロックアウトによつて賃金支払義務を免れるかどうかは、別個に解決すべき問題であつて、右は一に民法第五三六条第二項に該当するかどうかによつて決すべきものというべきところ、会社がロックアウトの根拠とする組合の争議行為は、前記の如く一に会社側が一二月二九日以降正当な理由なくして組合員の就労を拒否し続けたことに基因し、しかも会社の就労拒否が組合の団結力を弱化させるという不正な意図を以てなされたと認められるほか右ロックアウトもまた右意図実現に奉仕する一面を有するものであることを否み難いのであるから、右ロックアウトは就労不能の危険負担関係には何の影響も及ぼさず、爾後における申請人等の就労不能も、依然として会社の責に帰すべき事由によるものというべきは勿論であり、会社は申請人等に対し、反対給付たる賃金の支払を免れることができないものと断ぜざるを得ない。更に会社は、右ロックアウト後も引続き組合が違法な争議行為を反覆している旨縷々主張しているけれども、右は、たかだかロックアウトの妨害排除的な面を正当づけるに止まり、これを以て申請人等に対する賃金支払義務を免れる正当な理由となし得ないことは、右に説示したところに徴し、自ずから明白であり、他に会社が賃金支払義務を免れる正当な理由があることを肯定するに足る主張並びに疎明は存しない。

七、以上の次第で、申請人等が被申請会社に対し昭和三二年一二月二九日以降の賃金請求権を有することは明かであり、賃金の支払日が毎月二〇日であつたことは当事者間に争いがない。そして、成立に争いのない乙第五号証の一によれば、右一二月二九日当時において過去三か月間の賃金総額を基礎として算定した一か月の平均賃金は申請人吉田が二九、五一三円、斎藤が二八、二九五円、中路が二八、七二九円、森が三〇、二八二円、黒田が三六、〇二五円、十川が一八、一〇三円、向井が三五、六一二円、田中が三二、二三〇円、蔡が三八、〇六三円、浅田が三五、六一二円、三島が三六、八三七円、小竹が二九、二二五円、金沢が二六、五九二円、和田が三四、八二四円、山崎が三四、四一四円、肥塚が三二、二九一円、藤井が三〇、四九三円、虎田が三二、〇三九円、新田が二三、五三七円、長尾が二九、九四五円、青田が二四、一五二円、御前が二九、三八三円、口野が二七、二六三円、田上が三〇、九〇九円、伊藤が二九、八一九円、大石が三七、一六一円、米崎が一八、九九六円、太田が二八、八七二円であつたことをそれぞれ認めることができる。なお、申請人等は、申請人斎藤、森、十川、金沢、藤井、新田、青田、御前、米崎の九名については、右一二月二九日から過去六か月間に支払を受けた賃金総額を基礎にして、平均賃金を算定すべきものであると主張するが、甲第一二、一三号証のみでは未だかかる算定方法を採用すべき特別の事情があつたことを肯定するに足る資料とすることできず、他に右主張事実を認めるに足る疎明資料がない。ところで、申請人等がいずれも賃金収入を生活の資とする賃金労働者として、現に賃金の支払を絶たれているため著しい生活の脅威にさらされており、従つて本案判決の確定をまつにおいては回復することのできない損害をこうむるおそれのあることも容易に推察されるところであるから、申請人等は当面の生活の危険を排除するため賃金支払の仮処分を求める緊急の必要性があるものというべきである。よつて、被申請会社は、右昭和三二年一二月二九日以降の賃金のうち申請人等が支払を求める始期である昭和三三年一月一日以降、毎月二〇日限り、申請人等に対しそれぞれ一か月について右認定のとおりの割合による金員を支払わなければならない。

八、申請人等は、さらに被申請会社に対し、団結権に基く妨害の排除を理由として、申請人等が会社構内に立入り、平常の労務に従事することその他従業員として有する一切の権利を行使することを妨げてはならない旨の仮処分を求めているので以下この点を判断する。

申請人等が、会社事業場に立入り、就労することは、団結権の擁護に資するものであることは首肯できるが(但し事業場内に組合事務所があるわけでないことは、弁論の全趣旨に照して窺われる)現行法上団結権を根拠として事業場内への立入、就労等に対する妨害排除といつた具体的な請求権が認められているものとは到底解し難いところである。さらに労働契約上からみても就労請求権に関する特別の定めのあることは窺われないし、就労につき労務者が特別の利益を有する場合でもないのであるから、使用者の意思に反して就労を求める契約上の権利を有するものとも解し難く、それに前記ロックアウトが立入禁止的な効力を有することは否定し難いところであつて、以上いずれの点よりするも右仮処分の申請は、被保全請求権を欠くものというべきのみならず、申請人等は、前記賃金支払の仮処分によつて、一応生活の安定を得て著しい損害を避けうるのであるから、会社の組合切崩し等に対する団結権の擁護は申請人等の自覚に委ねるを相当とし、右の如き仮処分を以て立入、就労を強行しなければならない必要性(もつとも仮処分が発せられても、間接強制の執行方法しかとれない部分が多く、その実効性はさほど期待されない。)はないものといわなければならない。かようなわけで、この点についての申請人等の申請は被保全請求権並びに仮処分の必要性の何れをも欠くものであつて失当といわざるを得ない。

九、叙上の次第であつて、申請人等の申請は右認定の限度においてその理由があるから、保証を立てしめないでこれを認容し、その余は失当としてこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民訴八九条、九二条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 金田宇佐夫 武居二郎 角谷三千夫)

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